No.5 白いアジサイ
うちの裏のアジサイが白く咲いている。
なんてきれいで可愛いんだ!
好きな花はなんですか、ていう質問があったら白いアジサイ、て答えよう。
聞かれたことほとんどないんだけど、そう思いついた。
白いアジサイは「アナベル」て名前らしい。洒落ている。
やっぱり、好きな花は「アナベル」て答えよう。
でも、捨てがたい花はいっぱいある。あー迷っちゃう。
そんなことを思っていた夜に、近所の川で蛍が見えると聞いて足を運び、
わたしは初めて蛍たちがたくさん飛び交う景色を見た。
大興奮だった。薄暗い川の上に光がちらちら浮遊する様は、スマホで動画になんて収められないくらい繊細なものだった。
仮に撮ったとしても、この奥行きは体感しないと分からないな、と思った。
薄暗闇の中で白い光を放つ彼らは、手を伸ばせばすぐにつかまってしまった。
わたしの指先を歩き、そして人差し指の先っぽで光ってまた近くの空に戻って行った。
見えない先々のこととか、がんばったつもりがどうしようもない結果になった出来事とか、
思うことが思うように伝わらない悲しみや、受け取れなかった不甲斐なさとか、
そんなことがたくさんあっても生まれてよかったと思えるのは、五感があるからかもしれない。
白いアジサイの美しさや、蛍の浮遊する光に感動したり、そんなのんきさが生きて行くには必要だ。
2017年の初夏の出来事と考え事でした。